緒方洪庵は、江戸時代末期に活躍した岡山出身の蘭学者で医者、教育者です。備中足守の藩医の家に生まれ、大阪で適塾を開いて多くの優秀な人材を育て、日本の近代医学の基礎を築きました。天然痘の予防法を広めたり、コレラの治療に尽力したりと、当時の人々の命を救うために奔走した人です。

生い立ちと学問の道

洪庵は文化7年（1810年）に岡山県の足守で生まれました。幼い頃から医者の家で育ち、17歳で大阪に出て蘭学者の中天游に学びます。その後、天保2年（1831年）に江戸へ行き、坪井信道や宇田川玄真のもとで西洋医学を吸収しました。天保7年（1836年）には長崎へ遊学し、オランダ人医師から直接学び、この頃から「洪庵」と号すようになります。こうした経験が、彼を優れた蘭学者に育て上げました。

適塾の開設と教育者として

天保9年（1838年）、洪庵は大阪の瓦町で医業を始め、自宅に適塾（適々斎塾）を開きました。最初は小さな塾でしたが、弘化2年（1845年）に北浜の過書町へ移転。門生は全国から集まり、寄宿生だけで637人、外来生を合わせると2000～3000人に上りました。
・塾の教え方は自由闊達で、成績優秀な者が首席に座る「座席順位置」制が有名です。
・福沢諭吉、大村益次郎、橋本左内、長与専斎ら、後の明治維新で活躍した人々が門下生です。
洪庵は「洪庵の教え」を説き、学問は実学だと強調。塾は大阪大学の前身とも言われ、日本の近代化に大きく貢献しました。

医学への貢献

洪庵は医者としても革新的でした。嘉永2年（1849年）、京都から牛痘苗を持ち帰り、大阪の古手町に除痘館を開設。牛痘種痘法で天然痘を予防し、数え切れない命を救いました。また、安政のコレラ大流行時には『虎狼痢治準』を著して治療法を広めました。
・著書に『病学通論』『扶氏経験遺訓』などがあり、日本初の病理学書として知られます。
・これらの業績で、西洋医学の基礎を日本に根付かせました。

晩年と死去

文久2年（1862年）、幕府に招かれ奥医師兼西洋医学所頭取に就任し、江戸へ移ります。しかし、文久3年（1863年）6月、54歳の若さで喀血により急逝。江戸と大阪に二つの墓があります。洪庵の死後も適塾は門人たちに守られ、明治の教育に受け継がれました。彼の功績は今も大阪や岡山で語り継がれています。

もっと知りたい人のためのリンク集

緒方洪庵 – Wikipedia
洪庵について | 大阪大学 適塾記念センター
緒方洪庵(オガタコウアン)とは？ 意味や使い方
（4月～6月）「明治150年 緒方洪庵 ～近代の先駆け～」 岡山市